日本一かっこいい役所”香川県庁舎”を見る

日本一かっこいい役所”香川県庁舎”を見る

2022年9月5日

旅行の予定を立てる時はいつも見に行きたい建築を中心に予定を組みます。

この夏に初めて四国に行ったのですが、迷わず最初に予定に組み込んだのは「香川県庁舎」でした。

建築に詳しくない人だと、なんで旅行で県庁?と思うかもしれませんが、これはニッチでもなんでもないんです。普通の人が「香川に行く=うどん食べに行く」と同じくらいの感覚で、建築好きな人は「香川に行く=香川県庁舎を見にいく」になると思います。

今回はそんな香川県庁舎を見に行った話、写真を撮るのが楽しい建築でした。

巨匠、丹下健三の最高傑作

建築に全く詳しくない人に向けて簡単に概要を、読み飛ばしてもらっても良いです。

  • 設計者:丹下健三
  • 竣 工:1958年
  • 構 造:鉄筋コンクリート造
  • 指 定:重要文化財

設計者は丹下健三、戦後の時代に活躍した世界的な巨匠で代々木体育館・東京カテドラル・広島の原爆資料館といった誰もが見たことある建築を作った方です。

出身は前川國男事務所で、前川國男といえば世界三大巨匠のル・コルビュジエの弟子。産業革命以降の近代建築の最先端の系譜です。

そんな丹下健三の最高傑作とも言われるこの香川県庁舎。1958年に完成し2022年には国の重要文化財に登録されるなど、名実ともに超傑作建築。

通りから見た外観と開かれたピロティ

ここからは僕の所感。

まずは道路からみた外観を、通りに面した低層の棟は議会棟で奥に東館~本館と続き段々と高層になっていくようなボリュームの置き方は、公共建築として街に開いた配置を感じさせます。

正面から見上げるとこんな感じ。軸線を揃えた東館と本館が議会棟の向こうに見える。

真ん中の東館が重要文化財に登録されたいわゆる”香川県庁舎”で旧本館、奥にある高層の本館は2000年にできた新館で今はこちらが庁舎の本館になっています。本館も設計者は丹下健三。

通り側は全面的にピロティになっていて半屋外の開けた空間。

ピロティって暗くなりがちでちょっと圧迫感があるイメージだけど、これだけ高さがあると全く閉塞感もありません。

このピロティ、階段のシルエットがイケメンすぎる。

コンクリートでできた一つも無駄のない階段と、マッシブな木の塊が空中に浮いたような手すり。

この写真を撮った後に12時を回ったのでお役所がお昼休みに入り、休憩に入った役所の職員の方々でピロティが賑わっていました。

真夏で外は猛暑でしたが、街にこういった開かれた広い日陰があるのは相当大事ですね。建物ができた50年前はそんな酷暑があったとは思いませんが、今になって効いてくる丹下マジック。

日本の伝統意匠が用いられたファサード

脇の通りを少し入るとメインの東館を正面に迎えます。右手には議会棟、左手には本館。

道路の引きがあまりないので僕のレンズでは全体を綺麗に納められず、この写真だけiphoneで撮りました。

鉄筋コンクリート造ですが、そのデザインは和風の木造建築の表現。全体のボリュームからすると華奢に見える柱と梁の組み合わせで作られています。

建物の手前のオープンスペースも日本庭園のようなデザインになっています。

ダブルで入った大梁と、その間に綺麗に並ぶ薄い小梁。この構造の端部の見せ方から寺社仏閣のような空気感を感じます。

コンクリートを固めるときは木で型枠を作ってから、それにコンクリートを流し込んで固める作り方になりますが、この型枠を実際に作ったのは宮大工だそう。

海外から持たされた、コンクリートで作られた合理的かつ機能的なモダニズム建築ですが、日本の伝統意匠と技術を取り入れた日本オリジナルの、日本でしかできない建築になっています。

そういえばピロティの舗装の仕上げに洗い出しの部分がありました。これも和風っぽい意匠ですね。

開放されたロビーと圧倒的な壁画

続いては中へ。

行った日が香川県知事選直前だったからなのか、割と人がたくさんいたので内部の写真は少なめ。

1階のロビーは天井高さがピロティと揃っていて、開口部はフルハイトのガラスが入っているのでそのまま続いて内部になったような開放的な空間。

目を引く壁画は、香川県出身の画家”猪熊弦一郎”の作品。迫力がすごい。

美術館に飾られた絵とは違う、完全に建築と一体になった芸術ですが、しっかり梁下で切り離して建築の構造体の線は通しているのが流石。

天井も特徴的で、格子状の小梁に納まるように木板を貼って照明を納めています。徹底して構造体を邪魔しない内装。照明の配線は全部梁貫通なのかな。

家具もオリジナルで製作していて、小さく写っているシェルフやベンチもオリジナル家具のようです。

机や椅子も作りこむ拘りよう。

中二階に登る階段もかっこいい。

建築家の作る手すりっていかに華奢にするか、存在感を薄くするか、みたいなところがあるように思っていましたが、これだけ存在感のある手すりがすごくかっこいい。

躯体のコンクリート、開口のガラス、造作の木と建築に対する素材の要素が限りなく厳選されていることが肝なのかなと感じました。

外から見るとこの中二階の床はガラスの内側に入っています。ノイズになる余計な水平線は、徹底して外観には出させない作り。

まとめ

学生の頃から写真や資料では何度も見たことがあるのに、実際に行くと想像の何倍も美しい建築でした。

引いてみると荘厳な佇まいで緊張感のあるファサードなのに、近づいて行くと手を広げて受け入れてくれているような不思議な空間体験。

今はコロナ禍の影響で休止していましたが、職員の方による建築ガイドツアーがあったそう。再開された時には、改めて訪れたいですね。

時間や季節を変えて、何度も見にきたくなる建築でした。

ちなみに

超余談ですが、丹下健三といえば弟子が大量にいることでも知られます。wikipediaを見てもわかりますが、丹下事務所・研究室出身の有名建築家がズラーっと並んでいます。

僕が新卒から勤めるアトリエ事務所のボスも、師匠が丹下研究室出身。ご一緒した時には若い頃に代々木体育館の飛び込み台を設計したんだという話を聞かせてもらいました。要するに僕の師匠の師匠の師匠が丹下健三。そしてその先には前川國男やコルビュジエが。

建築は面白い世界で、出身事務所や大学の研究室を辿っていくと家系図のようにつなげることができます。(もちろん系譜のない素晴らしい設計者もたくさんいらっしゃいます。)うっすいですが、自分の中にも巨匠の系譜が流れていると思うと少し誇らしいですね。